【あらすじ】
内気なエンジェルあっちゃんと、天真爛漫な若菜と、朗らかだけどちょっとアブない?美保先生。
この三人で、一体どんな“発育チェック”が繰り広げられるのでしょうか?
後半、愉快な美術部OGたちや元クラスメートたちも飛び入り参加して、一体どんなことになってしまうのでしょうか?
乞うご期待です!
ホルモン治療でもたらされる肉体的、精神的な変化をリアルに描きつつ、性同一性障害のあっちゃんが親友や恩師の温かな愛に包まれながら苦悩や葛藤やコンプレックスを乗り越え、自己肯定感を上げてイク“性徴物語”です。
師走の午後の日差しに包まれる冬休みの校舎。
人気のない廊下に、乾いたノックの音が響いた。
「はーい」
[ガチャリ]
「失礼しまーす。あ! 美保先生!」
ポニーテールを揺らして明るい笑顔で部屋に入ってきた若菜を、白衣の女性養護教諭が出迎えた。
「久しぶりね! 待ってたわよ。卒業以来かしら?」
「だよね⁈ あっちゃん!」
「う……うん!」
若菜の背中に隠れるようにしていたあっちゃんが、はにかんだ笑顔で続いて入室してきた。
「てゆーか先生、その帽子、相変わらず似合いすぎてうける〜ぅ!」
若菜は、美保がかぶっているロシア帽子を指さして笑った。
美保はれっきとした純日本人だが、神秘の光を帯びた青い瞳と透き通るような白い美肌もあいまって、実際、ロシア美人と言っても誰も疑わないような美しい顔立ちだった。
朗らかな人柄で生徒たちから慕われる、みんなの”お姉さん”的な保健室の先生だ。
「うわ〜ぁ……保健室のにおい……懐かしい! あ! マモルくん、クリスマスバージョンになってるじゃん!」
好奇心旺盛な大きな瞳をキラキラさせながら室内を見回した若菜がめざとく見つけたのは、赤いサンタ帽子を被った人体模型だった。
「美保先生、相変わらず茶目っけたっぷりね♪」
「あら! 保健室の常連客で、いつもマモルくんに季節ごとのコスプレをさせて楽しんでいたのは誰だったかしら?」
「あはは、それ、私でした! あっちゃんの保健室登校もあったし、私たち本当、よくここに来てたもんね?」
「うん……美保先生にはいつも相談にのってもらっていたから……それで、保健委員だった若菜ちゃんとも仲良くなれて……」
左手を口元にそえ、歯にかんだ笑顔であっちゃんが応えた。
くりんとした瞳は恥じらいを帯びながらも澄み切っていて、窓の外の冬の青空のように一点の曇りもない。
〈若菜〉
(うう〜! その女子っぽいリアクション……ちっちゃな薄めの唇……か、か、可愛すぎるぅ♪)
2人の卒業生は脱いだコートをハンガーにかけると、美保先生の方に振り返った。
若菜は青のAラインチュニックに白のパンツスタイル。
元チアリーディング部だっただけあって、まっすぐに伸びた背筋が健康的で美しい。
あっちゃんはレースのあしらわれた白いブラウスの上にオフホワイトの花柄のボレロを羽織り、下はミニスカート。
寒いのが苦手だから、極暖ヒートテックレギンスは必須アイテムだ。
「まあ! 二人とも可愛いじゃない?あっちゃんの洋服は若菜ちゃんが選んでるの?」
「違うよ。私は、もっとシンプルで落ち着いた感じのも似合うよって勧めるんだけど……あっちゃんってば、フリフリとかフワフワとかそういう感じのが好きみたいで、ガーリーな服ばかり選ぶの」
若菜がちょいと口をとがらせた。
「だって……ずっと憧れてたんだもん……こういう可愛い感じの……」
「そうよね、ずっと我慢していたんだものね? 今はとにかく、自分が着たい物を楽しめば良いわ!」
美保があっちゃんをフォローした。
「にしても……しばらく会わない間に髪もすっかり伸びて、だいぶ女の子らしくなったじゃない? 治療始めて何ヶ月だっけ?」
あっちゃんは、あごラインまで伸びた、毛先にちょいと天然カールのかかる黒髪の先を軽く手櫛しながら、
「今年の2月下旬から始めたから……10ヶ月かな……」
「10ヶ月か……効果が出てきてるみたいね!」
「でしょ⁈ 歩いてる後ろ姿なんかプリプリしてて、女の子のお尻って感じだもん!」
自分ごとのように、若菜が自慢げに声を弾ませた。
「確かに前よりはぷよぷよしてきたかな? って自分でも思うけど……そこまでじゃないでしょ……?」
ミニスカートのお尻を触りながら半信半疑なあっちゃん。
若菜からいつも言われているが、いまいちピンとこないのだ。
「のんのん! 意外と自分の身体は自分ではわからないものよ。先生だって、お友達と温泉に行った時にお互いの身体をチェックし合って、意識を上げているんだから」
美保はやや“ぽっちゃりさん”気味の健康体をくねらせ、自称セクシーポーズでおどけてみせた。
その姿に屈託なく笑う若菜だったが……
あっちゃんは、憧れの眼差しで美保先生に見惚れていた。
「そうだ! 先生聞いて! 今日ね、あっちゃんったらここに来る途中に、おじさんにナンパされたんだって!」
「え⁈ ナンパ?」
「……うん…あのね……駅の構内で向こうからおじさんがツカツカってわたしに向かって歩いて来たのね。『何々?』って思ってたらわたしの目の前でピタっと止まってね、ジーッと見つめられて、『一つお願いがある! 一緒にお茶を飲もう!』って……
わたし固まっちゃって、声も出せなくて……手をブンブン振って断って、走って逃げちゃった」
「そぉ……それはビックリしたね……」
大人しくて内気な元教え子を心配する美保。
「私が一緒だったら追い払ってやったのに!」
「さすが若菜ちゃん、頼もしいボディガードさんね! でも、世の中には色〜んな人がいるんだから気をつけなきゃだめよ」
「は〜い。あ、そうだ! 先生に、私たちからお土産だよ♪」
「んまぁ、嬉しいわ♪ あらぁ、美味しそう! 後でみんなで食べましょうね! 先生からも……はい、一足早いけど、クリスマスプレゼント!」
美保が二人に手渡したのは、小さなフォトファイルだった。
「わぁ! 私たちが一緒に美術部してた頃の写真だね⁉︎」
「ホントだ! あ、これ文化祭の時じゃない? 杏奈ちゃんの変顔、いつ見ても面白いね♪」
あっちゃんも一緒に覗き込む。
「若菜ちゃんったら、あっちゃんと一緒にいたいからってチア部から美術部に電撃移籍しちゃったのよね?」
「ちょっと先生! 私もともと絵を描くのも好きだったんだですけど!」
o(`ω´ )o
ちょいとだけ頬を赤らめた若菜が反論した。
「と〜か言っちゃって……本当は美術部の顧問が私だったから転部したんじゃない?」
「そんなわけあるかーい!」
「照れない照れない! ほーっほっほっほっ♪」
そんな二人のかけ合いに心を和ませつつ写真に見入るあっちゃん。
(美術部……懐かしいなぁ……真緒ちゃん、サラちゃん、杏奈ちゃん、夏帆ちゃん、若菜ちゃん、そして……)
……写真の中にまだ髪が伸びる前の自分の姿を見つけると、胸の内がちょっぴり複雑になるのあっちゃんだった。
「やっぱり美保先生は写真撮るの上手! みんないい表情! 後でLINEでも送ってぇ?」
甘え上手な若菜のおねだりを美保が快諾しないわけがない。
〈美保〉
「じゃぁさっそく、あっちゃんの発育チェックいってみよっか?」
つづく
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